もめのめも書き

日常のエッセイ、仕事の記録など。

〔エッセイ〕あの台所に帰りたい。

光の射し方、窓枠の木の古びた味わい、土鍋や調理器具を並べられる広々とした棚。平屋で縁側があり、どこの光も大好きだった。全てが完璧だった。時々、あの場所に残る方法を知らなかったことを、どんよりと後悔する。

 

この時期は筍を掘り、広々とした庭で、薪をくべて羽釜でアクをとっていた。山吹を拾い、部屋に花を差した。蛍をすぐそばに見れる田舎だけど、岡山にも神戸にもつながる電車の駅に歩いて行けたから、両方向からの友人らの訪問が絶えず、友人が友人になっていっていた。

 

 

わたしは今より山に咲く花に詳しかったろう。野草の食べ方に詳しかったろう。

 


以前読んだ西原理恵子さんの本に、女が自分を生き抜く力をつけておく大切さが説かれていた。娘に語る母の口調で。男に人生の舵をきってもらうのでなく、自ら人生をハンドリングする力をつけておこうと。


その時の私は、あの台所に留まる術がなかった。人生を自分で決められなかった。一人でも生きる、一人でも楽しむということが出来ない女だった。

 

あの台所に残した後悔を胸に、自分が行きたい場所、帰りたい匂いへ辿り着けるように、今、私はここにいる気がする。

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